開業時に借り入れ先として提案できるのが、政府系金融機関からの融資や信用保証協会の保証付き融資です。他に民間金融機関からの借り入れと言う方法もありますが、「利息」と「返済期間」を考えると政府系が圧倒的におすすめです。
又、所属する美容組合や地元の商工会議所に足を運んで事前に相談すると、無料でより良い方法を提案してくれます。個人で手続きするよりも美容組合や商工会を通した方が借りやすくなります。
ただその場合は、どちらもその団体に所属することが条件になりますので、入会金や月々の会費は掛かります。推薦状や手続きに必要な書類・書き方など何でも相談できるので検討する価値はあります。
今回は、運転資金と設備資金の違いについてのおさらいです。
1.美容室の運転資金とは
美容室の場合、お店を経営していく上で日常的に必要になる資金のことで、例としては次のようなものがあります。運転資金は、短期間で回転する(毎月の売上代金を毎月の運転資金に充てるということを繰り返しぐるぐる回転させる)という性質を持つ資金です。毎月、売上代金が運転資金の支払いを上回るような事業でないとお店は存続できません。
- 材料や販売商品の仕入代金
- 自分も含め従業員に支払う給料やパート・アルバイト代
- 美容室の賃貸料・テナント料・ロイヤリティーなど
- 水道光熱費(上下水道・照明・空調・ガス・灯油代)
- 通信費(電話・携帯・DM・パソコンなど)
- 交通費(研修やセミナー・お客様の送迎・車のガソリン代・高速代など
- 福利厚生費(お店の慰安旅行・社会保険料など)
- 接待交際費(お客様に提供する飲み物や茶菓子代)
- 広告宣伝費(ホームページ作成・雑誌掲載・チラシなど)などあります。
仕分けや売上げに対する限度額もあるので事前に確認した方が良いでしょう。毎月支払いが発生するもので、その金額はある程度一定であるか、売上などに連動して増減します。以下の設備資金と比べるとその金額は小さくなります。
2.美容室の設備資金とは
美容室の設備資金とは、事業を行う上で必要となる設備を導入するための資金、設備投資のための資金のことで、今回のように開業のための設備も含まれます。
設備資金の例としては次のようなものがあります。
- 店舗の外装・内装・設備工事に掛かる費用で、看板なども含まれます。
- 美容室の賃貸に関わる敷金・礼金・保証金・前払い家賃・手数料など
- セットイス・シャンプーイス・待合テーブルイス・商品用陳列棚など
- レジやパソコン導入・事務用品など運転資金に比べると設備資金は金額が大きくなります。
短期間で回転する運転資金と異なり、設備資金を回収するまでには長期間かかることになります。そのため、設備資金を金融機関から調達する場合は、回収期間に合わせて長期で調達する必要があります。
3.自己資金+運転資金+設備資金=開業資金
このように開業資金というのは、自己資金と運転資金と設備資金を合計したものとなります。特にセットイスの台数に合わせて
- シャンプー台の数
- スチーマー
- 遠赤外線機器
- ヘアドライヤー
- デジタルパーマ機器など
必要な台数が変わってくるので設備資金の金額も大きく変わってきます。開店当初、自分ひとりで営業するのか、夫婦2人で始めるのか、最初から技術者や中間生を雇うのかで運転資金が大きく変わります。
自己資金も含めて開業時の借り入れの金額が大きくなればなるほど、その分リスクも大きくなる事を覚悟しなくてはなりません。
4.借入れ先をどこにするか?
では、美容室の開業(独立)資金はどこから借りたら良いのか?
おすすめは、
- 政府系金融機関である日本政策金融公庫
- 商工組合中央金庫です。
これらは国の政策に沿って融資を行うので、民間の銀行や信用金庫より個人事業主や中小企業に対して積極的に融資をしてくれます。信用が全くない状態ですからこのような公的融資や補助金・助成金などを活用するのが良いでしょう。
5.返済期間と条件について
私の場合は現在の日本政策金融公庫から借り入れを行いましたが、借り入れ時は国民生活金融公庫と言う特殊法人でした。最初から売り上げが順調にいって返済も滞りなくしていければ理想的ですが、何年か経つうちには売り上げの減少やスタッフの増減によって返済ができなくなることも最初からイメージしておくと気持ち的に楽です。
突発的な事故により返済予定が遅れた時、遅れると予測できる時は、
- 毎月の返済額を減らしてもらう
- 返済期間を延ばしてもらう
という交渉をします。
私自身、2店舗目の移転オープン2年後に「原子力施設の臨界事故」に遭遇し売り上げが下がり、給料が払えなくなりそうだったためスタッフを減らさなくてはいけなくなったことがあり、借入先にすぐに相談したことがあります。
毎月の返済は口座振替になりますが、公庫の場合は振替日の翌日までに「振り込み」すると遅延扱いにはなりませんでした。遅延は記録としてずっと残されるので、次に借り入れするときに不利になったり遅延が原因で借入不可になりますので、くれぐれも注意してください。
以下、公的融資の長所と短所です。
◎良いところ
- 金利が低い
- 新規事業者にも融資してくれる
- 個人事業主や小規模店でも融資に応じてくれる
- 返済期間が長期に設定できる
- 無担保・無保証人(※公的保証人をつける)の融資制度もある
◎注意するところ
- 事業計画・返済計画などはしっかり立てること
- 開業資金は自己資金がなければ融資してもらえない
- 返済が遅れると次回の融資を受けられなくなる
- 担保があってもそれだけでは融資は受けられない
- 審査に時間(期間)がかかるので早め早めに動くことが大切
上記の注意するところは、当然のことばかりのことですが、営業や経営は生ものと言われるほど計算通りには行かないことがありますので、余裕を持って返済額も決めておきたいところです。
まとめ
私は30年前、自己資金50万円で美容室の独立開業をしました。当時、借入を起こすために親や兄弟に協力はしてもらいましたが、それはあくまで通帳や証券を借りただけで、お金を借りたわけではありません。思い返すと「絶対に開業するんだ!」という気持ちが、50万円しかなくて大丈夫かなぁとか、恥ずかしいなぁと言う気持ちを完全に打ち消していたのだと思います。
自己資金については、
- 少ない自己資金でも心配は無い
- 早め早めの相談と行動が大切
- 借入は公的金融機関が、利息や借入期間でおすすめ
- 何があっても返済は遅らせないよう、初めから月々の返済額は抑えておく
このようなポイントをしっかり押さえてください。ところで、独立開業と美容室の開店(オープン日)は別ものです。私は最初の美容室は11月18日がオープン日でしたが、10月1日~テナントの賃貸契約をスタートさせました。
この時点で、家賃や従業員への給料支払いも発生しますので、1ヶ月半前の時点で「実質的に開業」と言えます。その間オープン向けて準備をしながら、仮オープンとして
- 身近な人に来店してもらう
- カラーリングやパーマを体験してもらう
- シャンプーの水圧・温度のチェック
- 遠赤外線加温機やスチーマーを試運転させる
- コーヒーやお茶などを実際に提供してみる
- チラシを準備して新聞店に持ち込み訪問
- レジも(練習モードで)打ち込む
この時期は楽しみでもありますが、心身ともにハードになりますので体調を崩さないよう注意が必要です。これで開店する前に、実際の営業の状態で人・もの・お金を動かす事が出来るのでオープン当日慌てることが少なくなります。